私の息子はダウン症です。知的障害があるとは診断されていますが、意思疎通は何とかできている状態です。気管軟化症はあるものの元気に保育園に通えるようになりましたが、将来への心配は尽きません。ダウン症で成人期以降で大きく問題になってくるのは2つ、認知症(または退行)と肥満です。ダウン症者が成人期以降に急性退行や若年性老化、認知症などを起こし、今まででたことができなくなるというような現象が指摘されています。これははっきりと3つに分かれているわけではなく人によって偏りはあるものの入り混じった病態であると考えられています。今回はそのうちの認知症に関しての情報です。まだ開発承認段階ですのでダウン症はもちろん日本でも使用できないのですが、こういうように新しい薬が一つ出てくるとそれに似たさらに良い薬が開発されるといった開発競争が起きるので今後注目したいです。
今回取り上げるのはアデュカヌマブという薬です。
アデュカヌマブは日本の製薬大手エーザイと米バイオジェンが共同開発した抗体製剤です。バイオジェンの日本法人が昨年12月、厚労省に承認申請しました。アデュカヌマブとはアルツハイマー病の原因の一因と考えられる「アミロイドβ」を標的とする抗体製剤です。アデュカヌマブを投与された患者の脳内では、脳内のアミロイドβとアデュカヌマブ抗体がくっついて、マクロファージや好中球が「アミロイドβ+アデュカヌマ」を貪食する(食べる)ことにより、脳内のアミロイドβが除去されるという薬理作用を示します。高用量のアデュカヌマブ(10mg/kg)1カ月に1回投与した群がプラセボ群と比較して“23%の症状の悪化抑制”が示されました。
しかしながら米国のFDAでは条件付き承認です。なぜかと言うと臨床試験というものはある一つの仮説(プライマリーエンドポイント)が証明されるかどうかを検証するために統計学的に人数や期間などを定めて実施します。つまり、プライマリーエンドポイントの仮説以外はその試験で統計学的にしっかりと立証されるものではなく副次的にそちらの方がいい傾向にある程度しか言えません。今回この効果が認めたとされている部分はプライマリーエンドポイントではなかったので、もう一度さらに検証するための追加の臨床試験をするべきとFDAはいっています。
一般的に、軽度認知障害が認められる10-15年ほど前の時点から、脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積されていくことが報告されており、アミロイドβタンパク質の蓄積量がある一定量を超えた段階で、脳の萎縮・認知機能の低下が発症することが示唆されています。これがアルツハイマー型認知症です。アデュカヌマブは軽度認知障害が確認される前段階でアミロイドβタンパク質の除去を可能にすることで、脳萎縮や認知機能低下を遅らせることが期待されています。
私がどうしてこの薬がダウン症の認知症にも適応が広がるのではと思っているのかというと、ダウン症の認知症も同様の機序のアルツハイマー型認知症であるといわれているからです。
ダウン症は21番染色体が普通より1本多く2本でなく3本ありますが、、21番染色体にのっている遺伝子からこのアミロイドβの前駆物質がコードされることがわかっています。なのでダウン症では一般より1.5倍アミロイドβが産生される傾向がありアルツハイマー型認知症になりやすいのではと推察されます。
まだ臨床試験も追試が行われていますし日本では承認されていませんがダウン症児の親として今後この分野の医療が進んでいくことを願っています。