医療的ケア児の親御さんたちはどの程度お子さんの治療歴を保管していますか?
あらゆる書類・手続きが多く、親だけでなく子供のケアマネになる必要があると言われる医療的ケア児の親御さんたちが治療に関して詳細に記録しておくことは困難(ほぼ無理)と思います。
なぜなら、専門性が高く、一概に「治療の記録」といっても主治医に言われたことを詳細にメモしておけばいいというわけではなく、さらにかりにカルテのコピーを得ることができたとしてもカルテだけでは不十分です。カルテには現在の治療の方針や現在の治療・状態だけが書かれていることが多く、たとえサマリーであっても後に見る医者が欲しい情報がすべて載っているわけではないからです。(今までの検査結果をすべてカルテに張り付ける医者はいません。)
そこで今回は「がん」の分野に限ってですが、保存しておいてほしい資料について情報提供しようと思います。必要な情報は大きく下記4つです。
- 術前説明・術後説明
- 抗がん剤名と投与量
- 放射線治療の照射部位と総線量
- 副作用が出た治療とその副作用の症状
①術前説明・術後説明
どのような意図で手術を行ったか、そしてその時どのように手術が終了したかを把握する為です。
例)二次がんで腹部のがんになり手術治療が検討されているが、腹部に術後瘢痕があった。けれども術式がわからなく癒着がひどいかひどくないかなど予測がつきにくいです(多少は画像検査で分かります)。術式を把握することである程度予想が立てられます。
②抗がん剤名と投与量
抗がん剤に関しては特にアンスラサイクリン系薬剤では心毒性がでるので、生涯にわたって使用できる耐用投与量が決まっています。わからないと同系統の治療薬が使えません。何サイクル(クール・コース)かやった場合は全部サイクル分保存しておいてほしいです。総投与量が大事です。
例)横紋筋肉腫に対しVAC療法で寛解。のちに小細胞肺癌になったアムルビシンが使用したいがアドリアマイシンの投与量がわからず使用できない。
※アンスラサイクリン系抗がん剤:ドキソルビシン(アドリアシン、アドリアマイシン)、リポゾーマルドキソルビシン(ドキシル)、エピルビシン(ファモルビシン)、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、イダルビシン(イダマイシン)、ピラルビシン(テラルビシン、ビノルビン)、アムルビシン(カルセド)、アクラルビシン(アクラノシン)、ミトキサントロン(ノバントロン)
③放射線治療の照射部位と総線量
放射線治療に関しては各臓器耐用線量というのが決まっていて腫瘍の局在とそのがん種の放射線感受性と照射野に入ってしまう臓器の耐用線量により照射範囲と照射線量が決まります。できれば画像で欲しいですが照射録だけではだめなこともあり(ないよりよっぽどいいですが)、実際照射野を作るときはさらに詳細なデータがないと困難なので照射を受けた病院名と治療日、治療の部屋、ID番号は控えておいてください。(難しい場合は照射録だけでも)
例)縦隔リンパ腫に対し胸部照射歴があるが、二次がんで局所進行非小細胞肺癌になった。照射野が重複してなければ根治治療が見込めるが根治線量処方できるかわからない。
④副作用が出た治療とその副作用の症状
副作用(有害事象)は治療にはつきもので、その後遺症(?)がある場合一般的な有害事象はわかりますが、重治療歴があるとこのようなアプローチはだめ、このように工夫するといいといったその子特有のものがあることが多いです。
例)ケロイド体質。○○系治療薬でinfusion reactionが高度に出るががんには効果あり前投薬を充実させ治療継続が可能であった。シスプラチンで聴力障害が出たため休薬したところ改善、以後使用は控えた。など
治療歴がわからないとデメリットを生じるないしはベストな治療ができないという事が起こりうります。小児がんを克服された方はどうしても二次がんのリスクは否定できません。それでも発症してしまった場合最善の治療を行うために必須な情報です。どうか資料をもらえる病院であれば捨てることなく、転院する時はその部分を詳細に紹介状に記載してもらうよう、またはフォローオフの際には有料にはなるかもしれませんが、治療歴の情報提供を正しく保管しておくことをお勧めします。
数年前の治療歴であれば前医に問い合わせることは日常臨床では極めてよくあることです。しかし成人の患者さんの小児期の治療歴というのはかなり詳細な情報収集が厳しいです。これはかなり内容をぼかしておりますが、2度ほどわたくしが実際に成人の肺癌患者さんで経験したことを元に作成しています。