医者として

準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の控訴審について

今、医療界ではとても有名な話です。冤罪だと。

もちろん全てのことに絶対はないのですが、状況証拠として私は冤罪と思っています。

知り合いから回ってきました、署名活動のお願いの文を転記します。ちょっと長いです。その下にこの事で今後医療界がどうなってくるかの予想を書きます。

『一審判決では
全員埋まっている四人部屋でそのような行為をおこなう蓋然性の低さや、術後せん妄を起こしていたとの判断に足る状況証拠や科学的合理性、さらには唾液検査、DNA検査の杜撰さ及び科学的整合性の低さから「事件があったとするには合理的疑いを差し挟む余地がある」として無罪が言い渡されました。

二審(控訴審)判決において東京高裁朝山芳史裁判長(細田啓介裁判長代読)は「被害者が診察だと信頼した状況を利用した犯行で、刑事責任は軽視できない」と述べ懲役2年の実刑判決となりました。

日本医師会、日本医学会は中川俊男先生、門田守人先生も以下の点からこの判決の科学的問題点を指弾しております。
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/009494.html
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/009505.html
(1)報道等によれば、控訴審判決では、せん妄の診断基準について、学術的にコンセンサスが得られたDSM―5(米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に当てはめずに、独自の基準でせん妄や幻覚の可能性を否定した医師の見解を採用している
(2)全身麻酔からの回復過程で生じるせん妄や幻覚は、患者にとってはリアルな実体験であり、現実と幻覚との区別がつかなくなることもある。このような場面は全国の医療機関で起こる可能性があり、もし、それが起こった場合には、医師や看護師が献身的にケアに当たっているのが実際であるにもかかわらず、そのことが理解されていない
(3)科学捜査研究所のDNA鑑定等では、①データを鉛筆で書き、消しゴムで消されていた②証拠とされたアミラーゼ抽出液を廃棄する③検量線等の検査データを廃棄するなど、通常の検査では考えられない方法がとられるなど、一審の無罪判決の記者会見時でも述べた通り、再現性の乏しい杜撰(ずさん)な検査であるにもかかわらず、検査の信用性を肯定している

またこの事件の根底は『譫妄』があったかどうかでありますがその是非を諮問する専門家として招聘されたのは
弁護側:大西秀樹氏(埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授)
https://www.international.saitama-med.ac.jp/detail1/d1-15/
専門:うつ病、適応障害、せん妄などの精神神経疾患全般、および治療経過中に生じた心理・社会的問題などを対象としています。(HPより)

検察側:井原裕氏(獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科教授)

専門:当科は本邦の大学病院で唯一の「薬に頼らない精神科」です。患者さんは、精神科に薬物療法だけを求めているわけではないはずです。薬物療法偏重(いわゆる「薬漬け」)の現状に抗して、私どもは一石を投じるべく療養指導・精神療法中心の治療をめざしています。(HPより)

ですが『せん妄の是非に関して』井原医師自身が作成したスライドにデカデカとした文字で「私はせん妄研究の専門家ではない」と書いていたくらいであるにも関わらず、上記(1)の判断が行われた点が最も大きな問題点だと思います。
せん妄についての多数の論文を執筆し、せん妄を専門に研究している大学教授(精神科医)である大西先生の証言を一方的に破棄し斯様な判断に至った点に関しては十分な説明がなされておりません。

日本乳癌学会も声明を出すこととなりました。』

この文面に、さらにもう少し踏み込んだ、これを書いた先生の気持ちがついていました。

一審の結果は知っていました。本当に大変なこと妥当は思うが、せん妄患者は本当にそのように見えて聞こえている(病態)なので、裁判所に訴えられるということは一定数ありえることと思います。本当に患者さんはそのように体験するので、患者さんが悪いわけでは全くありません。

私が驚愕したのは控訴審(二審)です。ありえないなと。科捜研が鉛筆書きした証拠が一番の証拠であるというのは、科捜研が嘘をつく意味ないじゃんって言っているんですよね?じゃあ病棟のスタッフも嘘つく意味ないじゃん。サイエンスにおいて鉛筆書きはゼロ価値です。当たり前です。世の中の全ての理系が知っている事だと思うくらい当たり前です。科学のスペシャリストである科捜研がそれを知らないわけないと思うんですけどね。もちろん想像ですが。

大きな病院に1年くらい勤めていたらみんな経験あると思うんですが、せん妄患者が警察に駆け込んで病院で殺されそうだと言っていると騒ぎになるみたいなことはよくあります。私はせん妄患者に首を絞められかけた事あります。もちろん訴えたりなんかしていません、そういう病気の状態ですから。

術後30分ですよ。術後せん妄に決まっていると言いたくなる状況です。もちろん、絶対はないのでわかりません。けれど、じゃあ逆にせん妄が起こってそうな時間に、せん妄が起こってそうな声を聞いた別の患者が同室にいてなぜせん妄が起こっていなかったと言えるのか。せん妄患者がカテーテルを抜去してきちんと丸めて置いておいてくれた事だってあります。LINEくらい操作できますよ。病棟で仕事していて、患者家族から急に電話があり『レインボブリッジに今日行ったって聞いたんですけどほんとですか?そんな事あります?』って全く歩けない人です。隣のベッドの患者さんも私の患者さんで、『さっきレインボーブリッジにいるのと電話していたよ』と教えてくれました。せん妄だなとわかり事なきを得ました。こんな風に携帯の操作なんか余裕です。

因みに以前もこのブログに出てきた知り合いの法律家に聞いたところ、残念ながら署名は裁判に全然影響しないと。。。。。

もし上告審(三審)で有罪となったらどうなるでしょう。

せん妄なんて本当によくある事なんです。最高裁の判決は今後の同じような事件に多大な影響が出るはずです。医療界がどう変化する可能性があるでしょうか。

(ここからわたしの完全なる想像ですが)おそらく大きな病院ほど医療安全から①異性の患者の病棟回診は一人では行わない。②診察特に触診などの際は患者と同性の医療スタッフが同席する。③術後せん妄のリスクを術前に説明する際、せん妄は防げないのでせん妄でケアが不能と判断した場合自傷行為は病院側に責任はないまたは身体的抑制を行いますまたは状況確認のため撮影をさせていただきますと説明。と指示されるのではないかなと思います。つまりどういうことかというと、時間外の回診は全面的に不能になります。スタッフも暇じゃないです。何人もで担当でない患者の回診には付き合う人手はどんなに頑張っても日勤帯のみ時間外は不能です。つまり、内科医は外来日、外科医は手術日は回診できません。患者さんにとってデメリットしかないと思います。医者が病室にこないと言うことになるでしょう。医療の質はかなりかなり下がります。どれだけ医者が時間外に患者さんの容態を見に行っているのか。そしてせん妄の患者さんにどれだけ看護師さんを始め医療スタッフに引っかかれたり殴られたり暴言を吐かれながら、患者さんに怪我がないようにケアしているのかを知ってほしいです。せん妄の患者さんをベッドに縛り付けることになるんでしょうか。。。ちなみに上記は嫌な言い方になりますが、全く法律上問題ありません。異常が生じた場合は、患者と同性のスタッフと一緒に駆けつけます。でも異常がない時にまでそんなにマンパワーはないですと言うことです。言い方を変えると異常が出るまでほっとかれる可能性があると言うことです。スタッフの人数ギリギリで働いている病院では本当に患者さんに不利益が起こるかもしれませんが、どうしようもないです。つまりアメリカみたいになります。

と、完全にわたしの想像で、実際こうなるかはわかりません。ちょっと感情的な文章になりましたが、冤罪であったとしても患者女性は悪くありません。本当にそのように認知されているはずです。せん妄と言うのはそう言う病態です。弁護士も患者女性の意見を信じるのが仕事ですから同じです、悪くありません。裁判官にかかっています。しかし、現代でも冤罪が有罪になってしまうのであれば、医者なんてやってらんないですね。

  • この記事を書いた人

おkら

呼吸器内科医。産後育休を取らずに仕事復帰したものの1歳を過ぎたころダウン症の息子に在宅人工呼吸器が必要になり保育園退園→介護休業→介護休業使い切り退職→研究職。いつか臨床に復帰したい。今の目標は息子に色々な経験をさせること。

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