ダウン症 医者として

移行期医療研修会まとめ

2021年5月15日『大阪における成人ダウン症患者の移行期医療を考える!』という医療者向けの勉強会がオンラインで開催されていましたので参加しました。

参加者は300人を超えていたようで「大阪」と銘打っているのに注目度の高さにびっくりしました。
2020年の第2回ダウン症学会でも同様に移行期医療はトピックの一つとして挙げられており最近注目度が上がっている証拠、とても良い傾向だなと思います。

医療的ケア児が医療の進歩と社会調整の結果在宅に帰れるようになったため起こってきた問題などと同様ダウン症の寿命が延びてきたことにより、成人ダウン症が増えその医療を誰が担うかがやっと問題になってきたのだと思います。これはほかの先天性疾患や小児慢性疾患児にも似たようなことが起こっており、成人期をどのように過ごすかなどはますます課題となってくることでしょう。

私とってもダウン症の息子の将来が心配です。将来は誰が息子の事を診察してくれるんでしょうか。。。以下は興味と危機感を持った実体験です。ちょっと親としてはつらいですが。

後期研修医の時(病気に関しては多少脚色しています。)低酸素脳症で肢体不全の男性がいました。小児期に低酸素脳症になりの小児科かかりつけの方でした。その方は身長は私より高く体重は軽めでしたがしっかり成人でした。発熱で小児科を受診し入院が必要となりましたが、小児科病棟のベッドははみ出してしまう、血圧計や医療物品のサイズが合わないなどの理由で結局院内で相談の結果、成人診療科病棟へ入院することになりました。尿路感染症でした。小児科・泌尿器科・総合内科・救急科・その日の内科当番科、神経内科がどこもうちでは診れないといった挙句、上長のパワーバランスで入院科が決まりました。そしてその方の親はいつも小児科病棟への入院の際のように付き添うつもりで来られましたが、小児科病棟以外では個室と付き添い入院はできないというルールでしたし、個室はその時重症者と末期の方でいっぱいであいていませんでしたので付き添いできませんでした。神経内科ローテ中だった後期研修医の私は当番でその方の培養結果を見ましたが耐性菌がたくさん出ており、本当に言い方が悪いですが、無茶苦茶な抗菌薬の投与をされていたようでした。担当医が転勤などのたびに色々な小児科医にバトンタッチされていてカルテもサマリがなく、最近の入院はわかるが、過去の病歴はカルテをひっくり返して何とかわかる部分もあるかなという程度でした。大人に子供と同じ感覚で抗菌薬を使用したのでしょうか。尿路感染に関しても結石性でしたが、手術や破砕術をするかどうかの提案もなされておらず、親御さんは付き添いたいし家族ケアの手厚い小児科に戻りたい(付き添いできない、テープに絵が描いてない、シーネ固定の方法が違うなどが理由でした)とおっしゃるが、小児科は受けられないというしと。見事な泥沼でした。見事な移行医療失敗例でした。どうしてこうなってしまったのかと後期研修をしながら思った印象に残る症例でした。(私も含めひどい医療者です)

私は一番の問題は一般的に成人の医者で移行医療に興味を持っている人が少ないこと、小児科医は紹介さえすれば成人診療科医が受け取るべきだし受け取って当然と思っていることだと思います。
私は多数の医療的ケアを受けている医療的ケア児の親ですし、発達障害も知的障害もあるダウン症児の親ですから自分にも刺さることですが、だけどあえて悪い言い方でいうと成人診療科の医師にとってはめんどくさいんです。加算もつかないし、とってもとっても忙しい外来で病歴はながい、親のニーズは大きい、知的障害の人と交流したことがないから医療診察どうしていいかわからない、そしてそもそも小児疾患やケアしなければならないことを知らないんです。だからとてもめんどくさい。(せめてあらかじめカンファレンスなどで申し送りをしてほしいと思うわけです)
これまた勉強しろよとなるところですが、研修する場所もないんです。(私はここに危機感を感じます。)

しかしこれじゃいけないと思うので、まずは自分がなんとか勉強してみようと思い今回参加しました。将来は呼吸器内科だけでなく小児科卒業生の風邪や検診などにも携われたらなと思います。

さてここからが本題。

今回の勉強会の内容です。
基本的には勉強会をしてまず何が課題で今後どういう視点で取り組んでいかないといけないかということをメインに話しがなされていました。とても勉強になったので成人診療科の先生たちが多数参加していてくれていればうれしいなと思いました。

現在の課題

①ダウン症のことがどこまで知られているか。
成人診療科の医師はダウン症に関してほとんど知らない。(ちなみに息子を産むまでの私の知識は、21トリソミー、特異的顔貌、知的障害あり、心疾患の合併が多い、筋緊張が弱い。のみです。本当に。)
小児期は診療指針にもあるように、各合併症は専門診療科が担当し、全身管理や発達フォロー、ワクチン接種や基本的な年齢ごとの検査などを小児科が担当とするが、成人期は各専門診療科が担当になり、合併症のほとんどないダウン症者はどの科へかかるのか。合併症があってもその臓器以外の定期フォローはどうするのかなど、決まった方針はない。

※ダウン症に特有の健康問題 加齢の影響を受けやすいもの
聴力障害、消化器系の問題、独り言・大声、睡眠時無呼吸症候群、肥満、甲状腺機能低下症、閉経(平均46歳で一般より10歳若い)

②知的障害に対する医学教育体系も診療体系もない
知的障害のある人に対する問診の取り方やコミュニケーションの取り方といったテクニックは経験にゆだねられていることが多く、医学教育のカリキュラムにはその方法論はない。(最近は精神系のカリキュラムにで知的能力症候群についてという項目があるらしいが。)

③知的障害者の認知症についての理解が必要
知的障害者の認知症有病率は一般高齢者より高い。
ダウン症も一般より認知症有病率が高い。ダウン症者では30歳までにベースラインを評価することが推奨される。その後2年ごとに再評価、50歳以上では毎年再評価する。知的障害者用の認知症評価尺度を用いて継続的な評価を行うことが大事。
DSQIID(ネットに日本語バージョンあり)というツールがあり半年以上本人と接している支援者であれば記入し評価に用いることが可能。

④ダウン症専門医が少ない
日本においては成人期医療ガイドラインはまだない。米国では2020年10月に公表あり(しかしX線検査などに対する保険の仕組みが日本とはちがい、多少日本の医療体制とは合わない点がある。

ここから私の思ったさらに追加課題
⑤成人診療科医師の福祉や介護につなげる知識不足(ソーシャルワーク大事)
⑥本人が自己決定できるかどうかの判断基準がない(小児期は親権のある親で問題ないが成人後は本人?後見人?本人の意向があっても後見人?)
⑦主治医は地元の医者?センターに集約?
とこんなことを思いました。

今後行っていくこと
まずは
医療の空白期間を作らない(学童期から成人期までに医療ドロップアウトしてしまい、成人になって問題が発生し、成人診療科にかかるも、間の状況がわからないといった事がある。)
興味関心を持つ、医療者・支援者を増やしていこう!!!!(わからない→怖い→いやだ、となりがちですので)
でした。

今回は啓発的な意味合いが多い勉強会でした。今後もいつか移行医療に参加できるよう勉強していこうと思います。

  • この記事を書いた人

おkら

呼吸器内科医。産後育休を取らずに仕事復帰したものの1歳を過ぎたころダウン症の息子に在宅人工呼吸器が必要になり保育園退園→介護休業→介護休業使い切り退職→研究職。いつか臨床に復帰したい。今の目標は息子に色々な経験をさせること。

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